夜行日和

短歌まとめ

うみ

新緑とか風薫るとか言いながら金魚がぼくの持つエサだけ見てる

アイラブユーなんてことばに逃げないでもっとわたしを不幸にしてよ

わたしたちを特別扱いしないでと特別扱いさせようとする

これは嘘だけどシロツメグサで冠をつくってあそんだよ、きょう

来るべき時に備えて猫の名を考えながらアイスを舐める

全身に拍手をくらえ自転車on雨合羽で暗やみを疾走

球体になりきれぬまま吐く息で地球がすこしあたたかい夜

そのままの形で生きたいだけなんだ染色体の数など数えず

花束をぶちまけたとき、わかるだろう これが五月のきねまぐらふだ

ひとという入れ物固くあの人もちょっと前屈みで泣いている

溶接の跡もりもりと折りたたみ自転車がアメリカより来たる

12時に別れるのってシンデレラみたいねほどける革靴の紐

これが腐乱死体の折れ線グラフ生前書いた詩の焼き回し

きみを吸収するガスマスク越しに 5月の空の青さとともに

光化学スモッグ浴びてゆく親子
くじらはゆっくり息継ぎをする

爽やかな風吹き抜ける非常ベルの前に明るいデスクを置きたい

お互いに足りないところを補っていけるよう足りないほうがいい

ていねいな暮らしを八百屋でひとつ買う明日のテロの準備をしよう

ねえ、なにもしていないのに世界が壊れたんだけど、どうしたらいい?

ぼくのシュノーケルときみのシュノーケルを交換しよう、月夜の晩に

アスファルトの船底照らす灯台が潜水艦に変わる瞬間

洗濯機の中で毛布は長かった冬を懐かしそうに語らう

カフェラテの海から突き出た潜望鏡見える?ぼくの部屋ぼくののどちんこ

この先もたぶんひとりで生きていく花と線路に守られている

さよならの練習ほんとのさよならがきたときの為さよなら世界

青空を売りにきました。手のひらに乗ります。少しあたたかいです。

ゆっくりとぷらねたりうむのまわる町までゆっくりとバスで行きます

はみだした分だけ強くなれるから力いっぱいはみだせクーピー

生きたくはないけど背中押す風がみな平等であってくるしい

台本を開く何かが書き足してあるよく見ればちいさくちいさく うみ

鉄塔、春

擦りきれたスニーカーでも同じ道歩けるけれど音が鳴らない

細長い細長い3階建ての外階段を照らす照明

息苦しさに溺れてく紫の空とイヤリングみたいな月と

咲くときも散るときも黙っていよう桜前線は北上していく

ひたひたに滴るほどの墨をつけわたしはなんと書くつもりだろう

縦線と横線の交わる位置を確かめながら傾いて、春

松の木のように"松"の字は強く、"楽"の字は楽しく笑え

月曜の崩れて落ちる陽光のまたたきのなかに鳩とらわれて

入ってはいけない森の奥ぼくの黒い羊を見ませんでしたか

ゆけ鉄塔ゆけ地平線ゆけ銀河さくらさくらやよいのそらは

世界中どこにもきみがいない朝迎え続けるこれからのこと

真っ黒に塗り潰されてしまうまでなんとか人の形でいよう

やさしいねさくらははなびらの落ちるところにひとしくわたしをえらぶ

性能が劣っていてもかわいくてキレイなものが選ばれていく

こうなれば花びら型の爆弾で春を爆撃してまわろうよ

夢を現像するカメラ買いましたやっぱりきみは写らなかった

知ればもう知らない頃に戻れないジップロックに詰める春風

どくだみの花を目指して生きていく薔薇でも百合でも桜でもなく

ハムスター居なくなってもハムスターまだそこにいるプラスチックの家に

いつまでもこどものように石垣を触っていたい通るたんびに

(もう来るぞ津波が来るぞ)生き残った人が生き残った理由を話す

人は人わたしはわたしきみはきみ 色とりどりの旗を見渡す

二度落ちた自動車免許の帰り道バスで配られる裏校のビラ

探し物はなんですかと歌う母の背は探し物がたくさんある背

本棚から落とされていく本落ちて開いてそして閉じていく本

久しぶりに開けた歌集の真っ白なページの隅に蚊が死んでいる

穏やかに死んでいくため選びとる色鉛筆のパステルカラー

揺れながらぼくの話を聞いている妹の目が段々閉じる

説明の途中で急に飯台の端をピアノの変わりに叩く

実の兄なのに将棋を挑むとき一旦躊躇してからの飛車

実家には実家のルール その実家のルールで暮らす一人だけの部屋

ブックオフには三つ編みも殺人も地獄も魔法学校もある

空想のマリオがぼくのマンションの屋根掛け降りて水中ゾーンへ

欲望のまま終わりたい生きるのも死ぬのも義務では無いと言ってよ

カレンダー、みつを、格言、写真、メモ、前の家主が残した星座

歯磨きをしつつキッチンに座り込み見たことのない傷を見つける

どきどきしてしまうどきどきどきどきしてどきどきしているうちに朝になって

太陽を捕まえにいくきみの乗るうさぎがぼくを追い越していく

酔っぱらい自分で自分の感情に名前を付ける(すごくむなしい)

こんなことなら長袖を着てきたらよかった夢の中をさ迷う

街頭の灯りを月と思い込みどんどん伸びていくぼくの影

ため息は三秒までと決めている四秒越えたらアイスを食べる

生きている限りぼくらは手をつなぐ可能性だけ持って歩こう

脳みそにきれいなものをなにもかも詰め込んでゆく月は大きい

いつもそこにあるもの、スマホTwitter、ドアを開けたら三秒後に、風

なにもかもさらわれていくような夜 月影の端に白い犬置く

手のひらを見ればわかると手相見に言われ手相見の手のひらを見る

赤い星めざして歩けでもそれは朱色のポピー、朱色のポピー

雨の降る確率90%泣かずにノーと言えるぼくたち

未完成絵画の夢を見ていたよイースターにはきっと帰るね

後輩の指差し確認一覧に黄色い爪の燦々と飛ぶ

ときめきは走り続けるためにある段ボールはまな板の代わりになる

ねえ、なんで飛んでいくシャボン玉ばかり見てるの夢の中の飼い犬

この箱になにを入れようアキレス腱を痛めた天使とかかな

おおぞらを紙の魚が泳ぐ夢すこし傾くだけでこぼれる

未使用の愛やお菓子を持ち寄って壊して埋めてきれいなお城

"雨上がりの夜空にと聞いて思い出す夜を増やそう週間"が来る

かわいいを作ろうと思ういつもこの道から見える観覧車とか

音の鳴る花があったらこれはミだつま先立ちで春を踏んでく

殺されたあいつの分も生きている訳じゃないけど弁当に鯖

2017.4.1~4.30  60首

降水確率90%

擦りきれたスニーカーでも同じ道歩けるけれど音が鳴らない

細長い細長い3階建ての外階段を照らす照明

息苦しさに溺れてく紫の空とイヤリングみたいな月と

咲くときも散るときも黙っていよう桜前線は北上していく

ひたひたに滴るほどの墨をつけわたしはなんと書くつもりだろう

白と黒だけでいいって思っていた半紙に桜の花びら落ちる

縦線と横線の交わる位置を確かめながら傾いて、春

松の木のように"松"の字は強く、"楽"の字は楽しく笑え

月曜の崩れて落ちる陽光のまたたきのなかに鳩とらわれて

入ってはいけない森の奥ぼくの黒い羊を見ませんでしたか

ゆけ鉄塔ゆけ地平線ゆけ銀河さくらさくらやよいのそらは

世界中どこにもきみがいない朝迎え続けるこれからのこと

真っ黒に塗り潰されてしまうまでなんとか人の形でいよう

やさしいねさくらははなびらの落ちるところにひとしくわたしをえらぶ

性能が劣っていてもかわいくてキレイなものが選ばれていく

こうなれば花びら型の爆弾で春を爆撃してまわろうよ

夢を現像するカメラ買いましたやっぱりきみは写らなかった

知ればもう知らない頃に戻れないジップロックに詰める春風

どくだみの花を目指して生きていく薔薇でも百合でも桜でもなく

ハムスター居なくなってもハムスターまだそこにいるプラスチックの家に

いつまでもこどものように石垣を触っていたい通るたんびに

(もう来るぞ津波が来るぞ)生き残った人が生き残った理由を話す

人は人わたしはわたしきみはきみ 色とりどりの旗を見渡す

二度落ちた自動車免許の帰り道バスで配られる裏校のビラ

探し物はなんですかと歌う母の背は探し物がたくさんある背

本棚から落とされていく本落ちて開いてそして閉じていく本

久しぶりに開けた歌集の真っ白なページの隅に蚊が死んでいる

穏やかに死んでいくため選びとる色鉛筆のパステルカラー

揺れながらぼくの話を聞いている妹の目が段々閉じる

説明の途中で急に飯台の端をピアノの変わりに叩く

実の兄なのに将棋を挑むとき一旦躊躇してからの飛車

実家には実家のルール その実家のルールで暮らす一人だけの部屋

ブックオフには三つ編みも殺人も地獄も魔法学校もある

空想のマリオがぼくのマンションの屋根掛け降りて水中ゾーンへ

欲望のまま終わりたい生きるのも死ぬのも義務では無いと言ってよ

カレンダー、みつを、格言、写真、メモ、前の家主が残した星座

歯磨きをしつつキッチンに座り込み見たことのない傷を見つける

どきどきしてしまうどきどきどきどきしてどきどきしているうちに朝になって

太陽を捕まえにいくきみの乗るうさぎがぼくを追い越していく

酔っぱらい自分で自分の感情に名前を付ける(すごくむなしい)

こんなことなら長袖を着てきたらよかった夢の中をさ迷う

街頭の灯りを月と思い込みどんどん伸びていくぼくの影

ため息は三秒までと決めている四秒越えたらアイスを食べる

生きている限りぼくらは手をつなぐ可能性だけ持って歩こう

脳みそにきれいなものをなにもかも詰め込んでゆく月は大きい

いつもそこにあるもの、スマホTwitter、ドアを開けたら三秒後に、風

なにもかもさらわれていくような夜 月影の端に白い犬置く

手のひらを見ればわかると手相見に言われ手相見の手のひらを見る

赤い星めざして歩けでもそれは朱色のポピー、朱色のポピー

雨の降る確率90%泣かずにノーと言えるぼくたち

未完成絵画の夢を見ていたよイースターにはきっと帰るね

後輩の指差し確認一覧に黄色い爪の燦々と飛ぶ

ときめきは走り続けるためにある段ボールはまな板の代わりになる

ねえ、なんで飛んでいくシャボン玉ばかり見てるの夢の中の飼い犬

この箱になにを入れようアキレス腱を痛めた天使とかかな

おおぞらを紙の魚が泳ぐ夢すこし傾くだけでこぼれる

未使用の愛やお菓子を持ち寄って壊して埋めてきれいなお城

"雨上がりの夜空にと聞いて思い出す夜を増やそう週間"が来る

かわいいを作ろうと思ういつもこの道から見える観覧車とか

音の鳴る花があったらこれはミだつま先立ちで春を踏んでく

殺されたあいつの分も生きている訳じゃないけど弁当に鯖

2017.4.1~4.30  61首

春の星座

強く雨降りだす音に口中のクリームパンはかき混ぜられて

白い壁話しかけても話しかけても答えないなにもかも夜

シェアパックぐらいがきっとちょうどいいきみへの愛を食べて生きてる

カルピスとコーラを混ぜる割合は一対一と決めている春

ロックンロールになれなかった花束を抱いて海への近道を行く

新聞に載ることのない猫の死を何度も見届けてきた国道

助手席のリクライニングの角度会う度変わる人、変わらない人

生きている意味ってほんとにあるのかなメルティーキッスは期間限定

音楽を食べて生きてる怪物が泣いているのは春が来たせい

いま風になりゆく鳥の心臓が春の星座の角度をめざす

折り畳み傘しかなくて戦えない人にやさしく春雨落とす

深く吸うことができれば強く吐くこともできると思よ、きっと

かみさまと言葉がちがうことだけが気掛かりそっと目蓋を閉じる

また次のステージに上がるときのような気持ちでひとつ縁石登る

ああそうか、あの子にとってぼくなんかRPGの村人10だ

王様の指令のように降ってきて色褪せた街を照らす春雷

どうしてもだめなら別々にあるくあなたは朝へわたしは夜へ

選択のできないシミュレーションゲームのように地球は回り続ける

渦巻きの最初の位置に立ったとき誰にも説明されない最後

涙とは勝手なものと思っていたこらえられると知るこの日まで

トラロープに囲まれている菜の花が工事看板の彩りとして

もっとずっと月がきれいな日があった美術館などなくてよかった

スーパーで半額の豚肉を買うひとりできた道ひとりで帰る

昔から割り算が苦手だったから割り切れているフリだけ上手い

モーニングコールのようにやってくる春がハモニカ吹きながらくる

先生が泣くクラスメイトらが泣く騙されちゃだめ騙されちゃだめ

使い捨てカメラで撮れるだけ撮ったプリクラよりも鮮明な友

最後の日友だちはもう来なかったピッチの番号だけが残った

ハルシオンでは死ねないと知ったのはいつだったかな。高一の冬?

いつも今から始まってゆく祈りしづかにあすの綻びの音

ぼくたちは進む速度は同じでもすれ違わない轍になろう

じつはぼくの本体黒縁の眼鏡外せばきみの顔も見れない

夕暮れが始まっていくゆずマーマレードの瓶を開けたその時

透き通る雨が硝子の心臓を削って創る七色の骨

この空の間違えている可能性についてあなたの推論を聞く

野良猫の宇宙のような背を撫でてきらきら星を口ずさむ子よ

ほしふればざんこくショーのはじまりにぼくらのまちははくしゅかっさい

ぼくたちはともだちだよね満月が欠けても歯車が回っても

文学の退廃的な響き満つ少年少女のかの学舎は

人生のほんのひとときでもそれは夜を煮詰めたような苦しさ

青春について書かれた文章に万年筆で書き足すさよなら

どうしたら首を絞めても死なないでぼくの言うこと聞いてくれるの?

わたしにはわたしの夢があるんだよきみにかまっていられないほど

絶妙な角度に設置してるのでそのりんごには触らないでね

死体さえなければもっとマシな部屋なんだよほんと電気消そうか?

さようなら、明日きみとは十字路で会うかもしれない、会わないかもしれない

暖を取るものがなければこの本を燃やしていいよ遠慮はするな

こうやってしずかなよるもいいでしょうみみなりはほしのふるおとのこと

明日までそのままにしておくきみの指の角度を焼き付けた脳

親友のO(オー)に渡して欲しい物遺書の一番はじめに記す

今すぐに咲いてほしいというぼくと春を待ってる人のやさしさ

だれも助けてはくれない教室で鳥になったり魚になったり

目蓋にはほんとのことが書かれてて目を閉じたときだけ見られるの

わたしたちほんとの愛を手にいれる覚悟はとうに出来ているのに

目を閉じてまた目を開ける運命は光りつづけることを選んだ

ひとつだけ残ったりんご籠の中きっと夜中に手足はえてる

2017.3.1~3.31

銀色の雨

三角をどんどんどんどん繋げたらうちのシャワーカーテンに続く

猫のいる気配だ日暮れの自販機の裏とかブロック塀の間に

近づけば逃げていってしまうところとかきみらはほんときぼうみたいだ

四時になるから帰って歌いましょう あなたも一緒に歌いましょう

食べかけのカップケーキを投げ捨てる 感情を捨てる覚悟で投げる

ほんとうをほんとと略すほんとうのうにほんとうが隠れているから

こうやって忘れ去られていくことも小気味がよくてわたしは好きだ、

こんなもの捨てちまえよと言われてもとてもとても金色なんだ

ぼくたちは複雑な脳を持っているらしいおかげでなにもわからない

コンビニが建ってその前その場所がなんだったのか思い出せない

ぼくたちは取り残されてしまったんじゃないだろうなこのまひるまに

太陽に当ててやろうか風は少し強いがぼくは
ぼくを押し出す

静かなる発泡スチロールの箱よアイスクリームを内臓として

衣擦れの音も立てずに生きるには猫になるしか他にあるまい

眠いので銀のアラザン投げつける相手をときどき間違えている

アラザンのアラザンによるアラザンのために降らせる銀色の雨

あの人にぶつけるためのアラザンを抱きしめてたら冬が終わった

一緒には居られなくてもいいんだよどっかで元気にしてたらそれで

誰でもいいからしろくまのぬいぐるみと手を繋ぐさぁ夜だ踊ろう

らららららひかる輪になるひらがながあるならそれはららららららら

この皮膚のどこかに切り取り線がある日本製であるのは確か

一回だけ倒れておこう天井を見よう誰かが起こしにくるまで

じゃあぼくは日の沈む方に帰るねいつでも死ねる月が明るい

待ち合わせしているような振りをしてテーブルの下で脈を数える

明るくて五月蝿いフードコートでは隣が大体家族かカップル

鉄板に載った牛肉ひたすらに無言で食べる真顔で食べる

手洗いの蛇口が子供用なのでがに股で20センチ沈む

完全にまっすぐにはなれない僕よ ひとつだけ望みをきいてやる

透明なウサギを飼って暮らそうよギターケースに入れておこうよ

前髪を切りすぎたとか言い訳をしながら撫でるおでこの丸み

閉まってるシャッター見ると叩きたくなるんだ多分これは遺伝だ

玉子焼き甘いやつしか食べたことないから甘いのしか作れない

春風と言えるかどうかわからない風がばよえ~んと言いながら過ぐ

もっと簡単に狂ってしまえたらいいのに狂ってしまえしまいた

2017.2.16~2.28

明るい死体

並んでるかなしみに名前をつけようか行列はずっと続いて


光だけ欲しいだなんてわがままねおんなじ量の闇をあげるわ


データバックアップ用にと脳みそをもうひとつ買い"ディー"と名付ける


おもしろいことなんか、ほんとにないよ。魔法が唱えるためにあっても。


お揃いのティーカップが恐ろしいやたらカラフルな夢を見ていた


空き瓶に金平糖をいれてほら、くる人くる人にほら、ほらと言う


いとしさの礫になりて降る夜の亡骸を抱き野道を歩く


月光に取り残された9四歩がらんと暗き盤上に笑む


なんとなく扉を開けるなんとなくきみが歌っているのがわかる


ああ光らなくなりどのぐらい経った小さい星のすみっこで待つ


チョコレートまみれで小麦粉の中に埋もれる/きみに窒息


ベッドには透明な鯨が住んでてぼくの布団を膨らましてて


この部屋は溢れた泡でいっぱいだひとつひとつに知らない漢字


すれ違うだけだった人も来世では深海魚になりまた会いましょう


飛んでいくために広げた翼だが邪魔だといわれ静かにたたむ


飛びかたを忘れた羽根も退化した時おり腕を大きく伸ばす


この骨は退化した翼の跡よそれを使って傘を開くの


なんでこんなに暗いのか、わからない、道をどうして、ひとりで、歩く


耳たぶに触れる10年前開けたピアスの穴はもうここにない


雨に立つカーブミラーの裏側に63年8月とあり


銅像になってしまったおじさんがずっと少しだけ口を開けてる


夕暮れの息苦しさに顔を上げペットボトルの海をひとくち


なにもかもやわらかいのにぼくだけがちがう形の棺を探す


幸せが落ちているかもしれなくて床の凹みをじっと見つめる


懸命に風はそよそよ揺するのにぼくらはよそ見ばかりしている


遠ざかる、釣り人、カモメの嘴、風が走りだすのを待てない


傾げてる首、その裂け目からきみの、新芽のようなもの吹き出して


薄暗いスタッフロールぼくたちのメランコリックの感電死体


15時。退勤じゃないドアを押す。わたしの胸がどかんと鳴った。


異世界への扉ならもっとそれらしくしてなきゃ駄目と先輩が言う


右腕が痺れてる、この前きみが、バケツに海を拾ってきてから


夢の中だけでいいから現れてわたしの光になってください


何もかも無かったことになるのならぼくは角砂糖300個食う


どうせなら晴れた日がいいどうせなら明るい死体になろうと思う


帰路につく天使のふりして途中まで一緒に帰らないって誘った


人になるなりかたなんか知らないさぼくはチキンを頬張るけものだ


噛み砕くチキンがちょっと生ぬるい、生きてるみたいに生ぬるい


致死量の酸素を摂取して眠る痛いから生きてるってわかる


ばりばりばりなにかが裂ける音がして布団の中のブラックホール


貝殻のベッドで眠り明日の朝、女神誕生ごっこをしない?


だって今日が来るのは初めてなんだからなんでもうまくなんてできない


ひとりでもさびしくはないけどそれをうまく言葉にできるだろうか


離れても生きていること返信が来ない葉書を何度でも書く


愛しても愛さなくても消えないよ一緒に居なくても光ってて


ゆっくりと忘れていくねそのうちに居ないってことも忘れるだろう


2017.2.1~2.15

すべて正解

暖かいことと光っていることは似ていて回り続ける木馬

月影に隠れて誰も撃てないわ(明朝体の仲間を狙え)

きみの住む惑星(ほし)はどんどん遠くなる時空を越えて殴りに行くよ

さんかく座銀河まで飛んでいくよりはずっとぼくんちのほうが近いじゃん

転落死してしまうほどはしゃいじゃう宇宙生活二年目の夜

最近の流行りは地球のカクテルの名前のついた宇宙猫らしい

マダムロゼ、きみも画面を観てごらんあれがきみの(ぼくの)ふるさと

乾上がった心に水をやりませう(ずるくなくても生きていきたい)

何もかもなかったことにはできません(わたくしは此所に此所におります)

心臓は小さな砂漠と申します(わたくしがそう呼んでおります)

その先は立ち入り禁止に御座います(夢を見るのは貴方の自由)

勇気ある乙女は足を止めません(恐ろしいのは皆同じこと)

守るものがあるから強くなる人と重荷に耐えきれなくなる人と

光指すほうへ恐る恐るゆく「なんだお前か」「来たかお前も」

あなたのは軽そうだよねと言われてもぼくの荷物はぼくだけのもの

一駅ごと一駅ごとに背を伸ばす無機物の銀色の輝き

日本語で車掌に話しかけられるちゃんと日本人に見えてる

マンション群抜けて突如に住宅街-突如に学校-突如に工場

お迎えのある人はみんな嬉しいねぼくは30分後の汽車です

「難波」なぜ難しい波と書くのだろう ただ行き過ぎるだけの人波

朝食は茶碗一杯の白飯と味噌汁、関西弁、関西弁

「次の電車はすぐ来ます」車掌の言葉を信じて待つ すぐ来た

きみが海なら不時着をするときの飛行機の形を次から選べ

夥しい数の郵便受けがあるどれどれひとつ開けてやろうか

朝焼けに選ばし者のように立ち犬におしっこさせている人

深く沈むためだったよねぼくたちが心臓の音数え合うのは

メリヤスで編んだ身体をくっつけて二人でひとつの形をつくる

ぼくたちを真空パックにしてください。永遠に開けないでください。

ぼくらには鳴らせない音五線譜の彼方一番星が鳴りだす

書き置きにふさわしい筆圧探る「今夜パラシュート工場で待つ」

なにもかもうまくいかないきみだけど生きているならすべて正解

どんなものにもあるストーリーきみと選んだというただそれだけでも

焼きたてはおいしいのにな萎んでくホットケーキのようにうつむく

寒いしか言わない友は寒いしか返さぬ我と道を急いで

延々とおなじところを回り続けている腕時計もわたしも

「天国にいる」と言われてを空を見る 眩しくってなんにも見えない

人間は漂白剤に浸けましょう 三週間で大人になります

なにもかも捨てて歩けば軽いかな ちょっと待ってよ、それは要るやつ

涙って零れないんだ流れてくだけなんだって気づくのは夜

午後三時、空は晴天、矢印は成層圏を貫く角度で

まろやかに眠る右脳は溶けだして裸足で駆ける銀河の背中

闇という闇ことごとく撃ち破るスペシウム光線がぼくにも欲しい

今日も過去、明日も過去になっていく 透明になれ わたしの鱗

完全と不完全との間にてどちらでもないものの魚影よ

沈む青の飛沫を食べて生きているならぼくたちは泳ぎだすべき

2017.1.15~1.31